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はじめに
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- 初めまして。大田智宏です。私は長崎市で生まれ育ち、福岡の建築専門学校卒業後、福岡県大川市で店舗什器や内装部材の加工取り付け、創作家具や空間演出等の製作を住み込みで修行しました。
丁稚という弟子が終わった後、故郷長崎の木工所で教会群の修復や施設など、全国各地の什器や家具、建具の製作に携わってきました。 -
衝撃を受けた作家と漆芸品との出会い
- 全国を車で旅をしながら長野県でふとgalleryに入りレジ近くの銀のスプーンを手にした時
「軽いっ!!」と思わず口に出した私。店主「この作品は木で漆の技法で作られてるんですよ。」この出会いから漆の表現の自由さに感動しました。長崎の文化財などに携わりながら、工芸の文化や歴史に興味を持ち始め、一から学ぶために石川県立輪島漆芸研修所に入所を決意しました。
世界各国から工芸を学ぶために集まる研修生に刺激を受けながら、「工芸」というものづくりの根源と考え方、歴史を学ぶ事ができました。そこで私は、地域の素材や技術、また長崎の文化、歴史の魅力を再確認したのです。
工芸に関する文献を調べていくと重要な文化を持っている長崎のことをより誇りに思うようになりました。
また、長崎の地に帰ってくると、かつての技術がなくなっていたり、後継者不足などの理由で失われていく素材や技術があることに気づきます。
現在工芸作家や金継ぎ、修復修繕などに取り組みながら素材を作る側のストーリーや関連性を大事に作品に取り組んでいます。 -
- 長崎の教会等に携わっていた一部の様子
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- 長崎県内の以前製作していた家具等の様子
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- 長崎市美術展入選作品「ガラス縄胎曙塗 帆風」
この作品は長崎凧に使用されるすべての材料を漆芸の技術を応用して製作しました。糸を使った縄胎漆器の技術を輪島で学んだことを活かし、長崎の工芸品であるビードロよまを使用。旗揚げ大会などで切れて捨てられるビードロ糸。凧が空高く上がったところから見える長崎の海や波風を表現して製作しました。また裏には凧で使用されている和紙を使い一閑張という技法を採用しています。この技法は、長崎くんちのお祭りの傘ボコの鯛などにも使用されています。 -
- 長崎県美術展入選 「波の綾」
この作品は長崎の青貝と大村湾で養殖された真珠、長崎鼈甲、長崎の真竹を使用して製作しています。途絶えた長崎螺鈿、藍胎という技術、また脚は教会の天井の構造をイメージして十字に交差した中に長崎鼈甲を埋め込んでいます。さまざまな長崎の工藝素材や技術を波の様子にとらえ素材から長崎の歴史や文化を語れるよう想いを込めて製作しました。 -
- 金沢での個展の様子
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全国の工芸材料の危機
- 日本の産地に足を運び、工房の見学や職人から実際に話を聞きコロナだけでなく伝統工芸が危機になっている現状を目の当たりにしました。今では日本の半数が倒産の危機になり、後継者問題、製造をするための道具や材料も同時に危機になっています。文化庁や産業省でも取り上げられています。
私が学んできた漆芸は、塗る物があってから存在します。刷毛は人の髪の毛を使い、筆は動物の毛を使い、長崎の対馬産の黒名倉砥石や長崎のくじら髭で作られるヘラを使います。石川県にいながら長崎から送られてくるものに喜びを感じました。
工芸の本質はその土地の自然素材を使い手作りし、手直しをしながら何十年何百年と世代を超えて使い続けることができます。 -
湯江和紙との出会い
- 作品製作に必要な素材を探してた矢先に出逢った長崎県産の手漉き和紙。
工芸材料に欠かせない和紙。全国の工芸材料が危機に立っている状況の中、産地として途絶えてしまった和紙を復活した湯江和紙。1971年途絶えた歴史を40年後に復活させる会を立ち上げ復活させた、県内唯一の手漉き和紙。
長崎で和紙の原料の楮から育てて、和紙を漉く環境を復活させるには想像を超えるパワーが必要だったと思います。素材や材料を何か少しでも手助けになれないか、後世に残せるような継続的な取り組みを行うことができないだろうか。長崎のために何かをしたい気持ちが強くなり、今回プロジェクトを行いました。
Instagramでとどろき工房の様子や活動様子を見ることができます。 -
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長崎にあった漆の技術
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- 朱塗りの円卓で鰭椀から始まり梅椀に終わる長崎食文化の卓袱料理。漆業界で卓袱料理の話をすると盛り上がり、漆をやっている人がなぜいないのか問いただされていました。
漆工の書籍には長崎の出島から伝わった工芸技術が多数あり、今では失われた長崎特有の技術もあります。長崎歴史文化博物館には漆芸に関わるたくさんの収蔵品があります。長崎漆器、長崎螺鈿、長与焼や亀山焼に塗られた陶胎漆器、金唐革、藍胎漆器、鼈甲細工に加飾された細工物など、こういった美術品だけでなく椀や日常品にも漆は長崎に深く関わっていました。 -
漆の魅力
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- 漆はウルシの木から採れる、100%の天然樹液です。ヨーロッパで『JAPAN」と呼ばれ、日本の代表的な工芸品の漆。安全な塗料というなのはもちろんのこと天然素材で、抗菌、殺菌でサルモネラ菌やO-157、黄色ブドウ球菌、大腸菌、腸炎ビブリオ、最近ではコロナウイルスを24時間で99%以上が減少させる効果など研究結果が確認されています。植物由来でありながら完全硬化すると酸、アルカリ、耐久性、耐熱性、耐水性、防腐性の高さなど、薬用や食用など漆の魅力はキリがないほど出てきます。写真にはなかなか伝わらない使い込むほど漆のしっとりとした艶が出てきます。
現在日本文化財漆協会、鳥栖漆会で育成活動にも参加しています。いずれは長崎にも漆を育てていければと思っています。 -
- そもそもなぜITAなのか。いろんな造形を考えてはいたものの、素材を活かせる形を考えたところ、フラットでシンプルに見た人が創造できるこの形に辿り着きました。軽くて様々な用途に応用出きます。器としての機能はもちろんのこと壁面にパッチワークのようにアートにもなります。
住宅や店舗の内装など、建具や家具様々な表面材にも長崎の素材をたくさんの人に創造を広げていければと思ってこのITAを作りました。 -
和紙のと漆の一閑張りという技法
- 和紙と漆を使った「一閑張り」という伝統的な技法があります。長崎くんち飾りでは竹で骨組みを作り、紙を貼り漆で彩色された「長崎張子」と言われ、傘ボコなどに多く使われる技術です。
和紙を貼り、朱色を塗り重ね、浄法寺産黒漆を上塗りに施しました。曙塗りと呼ばれる技法ですが、経年変化により黒が透け、使う度に朱色が顔を出してきます。長崎の唐寺を思わせる、また漆黒の深い艶はチョコレートを思わせるような仕上がりになっています。 -
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シュガーロードの文化を語れるように
- 砂糖を炭にして、砂糖乾漆という材料を作りました。簡単にいうと砂糖の炭です。漆の技法には自然素材を持ち入りますが、砂糖も使います。この材料は高蒔絵の下地や刀の鞘に塗られる様々な変塗りの材料として使われます。
「この板には砂糖が使われててね、、、、長崎にはシュガーロードという歴史があって、、」というような長崎に行きたくなるような話題かできるようなそんな作品を作りたくて砂糖を使用しました。砂糖と青貝を蒔地仕上げにして、鮑貝は長崎の夜景をイメージして取り入れています。 -
長崎ハタをITAに。世界初!ビードロよまを使った技法
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- ビードロよまという工芸品をご存知でしょうか。
麻糸に米のりですりつぶしたガラスの粉をつける糸。ビードロはガラス、よまは糸の意味。ザラザラとして肌が切れそうな感触をしてます。長崎のハタ揚げはこのビードロよまを使って、切り合うのが特徴で喧嘩バタとも呼ばれているそうです。調べたら、インドやインドネシアの方も使用しているとのこと。出島から異国情緒ある長崎ならではの文化ですね。
コロナ前に作品としてビードロよまを使った板を製作していました。ビードロよまを製作されている小川ハタ店さんとの協力もあり、切れて捨てられるビードロよまを活用して製作をしていこうと矢先にコロナでハタ揚げなど中止に。今年は4月に大会ができるとのことなので、楽しみです。
作れる個数はまだ未定ですが5月初旬からの製作開始を予定しています。 -
- 長崎をイメージして製作した2作品。
左から青、朱の漆を何層にも塗り重ねと青貝を蒔いてます。長崎の異国の雰囲気とかすかに香る潮風の匂い、夜には夏の暑さと夜景を思い出すような漆黒の中に光る青貝の美しさは品があります。
右は長崎市美展入選作品です。 -
長崎張子という長崎の工芸
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- 長崎の工芸の縮図を見るにはくんちの傘鉾を見るとよくわかるいいます。その中でくんちの傘鉾に多く使われてる技術「長崎張子」。長崎張子は本来、骨組みになる竹を編み、和紙を貼り漆をなどで彩色するものなのですが、今回厚手の和紙を10枚蕨のりで貼りかさね、漆を塗り重ねて製作しています。竹を使用していないので長崎張子と言っていいのかわかりませんが、漆では、はりぬきという技法を使って長崎張子として今回発表しています。
今回湯江和紙と長崎凧をメインの素材として研究していたので掛け合わせました。湯江和紙を使った長崎凧型の小皿を製作いたしました。
並び方で長崎のシンボルの紫陽花や十字架の形にもなり、様々な楽しみ方があると思います。おたけたしやアクセサリーなど、使い方の幅は無限大です。 -
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湯江和紙と砂糖箸
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- 今回クラウドファンディングのために湯江和紙と砂糖を使ったITAと同じ技法で箸を作りました。
芯は能登ヒバを使用し、軽くしなやかで柔らかい口当たりになります。 -
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このプロジェクトで実現すること
- このプロジェクトは長崎の漆を復活したいと、長崎を離れる5年前に言って漆芸の門を叩いたことを今も思い続けている私の長崎愛のプロジェクトです。
大量生産大量消費の時代の中、ものがありふれ、作る意味を考え続ける毎日。サスティナブルやSDGsはもちろんのこと長崎の工芸や素材を使い製作販売することで、私自身微力ではありますが、素材を定期的に購入できます。
そして長崎の工芸技術の向上や素材を持続でき、次の世代へつながっていくものづくりが実現すると思います。またこの技術を工芸だけでなく、きっかけとして、インテリアや内装、建築など街全体で盛り上げて行ってもらえればいいなと思っています。 -
支援の使い道
- 今回の目標金額は50万円です。集まった資金は、クラウドファンディングに関わる諸経費(手数料やリターンの原価・配送費など)を除いて、現在取り組んでいる長崎漆器の鰭椀や梅椀の製作、螺鈿の試作材料や研究費用として活用させていただきます。
皆様に作品を通して長崎の文化や歴史、素材など、たくさんの想いとストーリーが思い浮かぶようなそんな作品を作りたいと思っています。伝えていきたい長崎のことを、多様性を持ちつつ挑戦していきたいと思っておりますので今後とも温かく見守ってもらえると幸いです。